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2019年5月1日水曜日

リバ剣 息子と稽古④ 一つ拍子で打つ

正しい「一足一刀」で打つ


一足一刀の間合い


 2010(平成22)年8月。当時小学4年の息子と初めて稽古した時のこと。
 「一足一刀の間合いから打ってみて」と息子に言ったら、「届かないよ」って言われました。しかも、偉そうに。笑

 言うまでもなく、「一足踏み込めば打突部位をとらえることができる間合い」ですね。
 具体的な距離は規定されていませんが、互いの切っ先が5cmほど交差する間合いと言われています。
 剣道をやっている人ならこの距離感は体に染みついていると思います。
 
 では、この「一足一刀の間合い」から“一足一刀”で打てる人はどれくらいいるでしょうか。

 実際問題として、「一足一刀の間合い」からでは届かない人が多いのではないでしょうか。
 基本稽古で、「一足一刀で打て!」と言われて、もう一歩前へ出てから打っている人、よく見かけます。その場合の間合いを“打ち間”と称している方もいますが、いずれにせよ「一足一刀の間合い」ではありません。
 または、届かないので左足を右足の前に出して、つまり二足一刀で打っている人も多いですよね。
 私が子供の頃は、こういったことをしていたら、怒られたなんてもんじゃない。大変なことになりましたよ。笑

 現在は指導者によっては「一足一刀の間合いでは届かないから一歩入って打て」と言っている方もいます。ご自分が一足一刀で打てないんですね。

 「一足一刀の間合い」は“一足一刀”で打てるから「一足一刀の間合い」なんです。
 それが届かないのであれば、“一足一刀”で打つための基本、身体運用が崩れているということになります。

 息子の場合は、前回の投稿で記述した「一足一刀で打つための3つのポイント」を実践しただけで、すぐに打てるようになりました。本人が「絶対届かない」と思っていたものが、届くようになる。届くだけでなく“正しく”打てるようになったのです。
 
 何も特別なことをしたわけではありません。基本に忠実に打突しただけです。

 私自身も、「一足一刀の間合いから一足一刀で打つ」という基本稽古をすることによって、正しい基本ができているかどうかのバロメーターにしています。

 「届かないよ」なんて自信たっぷりに宣言してた息子ですけどね、基本通りに正しく打って届くようになった後の顔は、やっぱり輝いてましたね。

「二つ拍子」で打っている


 前回の投稿で、記述が途中になってしまいました息子の拍子のとり方。
 「二つ拍子」になっている。
 大きく打ったら「二つ拍子」で、小さく速く打ったら「一つ拍子」というわけではありません。(その違いは、前回の投稿をご覧ください)

 「一つ拍子」の打ちをやって見せるんですが、できない。道場の子供たちで「一つ拍子」で打っている子の打ち方を見せても、自分との違いが分からないんですね。「ボクだって、ちゃんとできてるじゃん」ってなっちゃう。

 「二つ拍子」で打つ人の特徴は、構えた時に右足に体重をかけて立っているんです。たいていの人の利き足が“右”ですからね。その方が楽なんですね。
 しかし、打つためには、右足にほとんどの体重がかかっている状態からでは、打てません。一度、左足に体重を移してから、右足を上げて前方へ踏み出すことになります。
 この「左足に体重を移したとき」に拍子を一回とっているんですね。すべての動作がほんの一瞬ですが止まります。
 そのほとんどの人が、左足を動かす。体重を乗せやすい位置まで左足を継ぐんですね。

 立合う相手から見れば、ここが機になるわけです。打つ前の左足を継ぐという動作が、「起こり」となってはっきり表れる。余談ですが、息子は後に、この相手の「起こり」をとらえられるようになって、試合に勝てるようになっていきました。

「一つ拍子」の打ち


 「一つ拍子」で打つために大事なことは、常に敵(相手)を想定することです。
 「一つ拍子」で打てるということは、理合(りあい)を体現するための前提条件です。「二つ拍子」でしか打てない人は、理合の体現は難しいのではないでしょうか。理合の体現は独りよがりではできません。お相手が自分を斬ろうとしている、斬りかかってくる、あるいは斬りかかってきた、という状態が必要ですね。
 たとえ打ち込み台が相手でも、基本稽古の時も、相手を想定してこれらの機をとらえようとする心持が必要です。そうでないと絶妙な体重移動が伴いませんからね。

 そしてもう一つ大事なことは、前述した体重移動。
 右足に全体重がかかっていては、機をとらえられませんから、左右の足に均等にかける。打つ時は左足は継がず、構えた状態から右足を前方に出す。大きく振りかぶっても小さく振りかぶらずに打っても同じです。

 防具を着けずに一人で打つと、「一つ拍子」で打てる人も、防具を着けて相手と向かい合うと左足を継いでしまう人、多いんですよね。

 息子にはなかなか理解してもらえませんでした。自宅で、簡単な打ち込み台まで作って稽古しましたが、どうしてもできない。左足を継いでしまう、体重移動の仕方を直せないんですね。当時、小4ですからね、まだできなくてもいいんですけど、できている子供もいますから。親が剣道をやっているのに、そのままではかわいそうだと思いましてね。

 そのころ、私が好きで観ていたのが『座頭市』のDVD。北野武監督のやつ。

 「そうだ、これを見せてみよう」

 名刀を手に入れた悪徳商人が、自分の使用人に試し斬りを命ずるシーン。
 たまたま通りがかった目の不自由な座頭市は恰好の餌食と思われた。名刀を抜いて上段に構える使用人。息を殺してそのまま座頭市の左側に回った。座頭市は気配、呼吸、わずかな物音から相手を正確にとらえている。座頭市の“仕込み杖”の柄に右手がかかった。
 使用人が息を継いで名刀を一気に振り下ろそうとする刹那、その「起こり」をとらえた座頭市が抜き打ちで名刀の柄を両断した。柄を斬ったのは相手が素人とみてのこと。

 息子は真剣に画面に見入っていました。

 「座頭市は刀が鞘(さや)に収まった状態から“一つ拍子”で斬っている。これは抜刀術というんだ。お前は鞘から抜いて、構えた状態から打つんだから、“一つ拍子”ができないわけがないよ。やってごらん」

 おもむろに竹刀をとって打ち込み台に向かった息子。

 スパァーン!

 「一つ拍子」の打ちができるようになった瞬間でした。