震災の影響で道場使えず
基本の基本を稽古
前々回の投稿で、「一人稽古の徹底強化」について書きました。
その2011(平成23)年は、日常の生活で「ナンバ歩き」を徹底し、“手製の打ち込み台”で片手で打って打って打ちまくり、積極的に出稽古にも行くようになった。
この年は、震災の影響で私が出場できる近隣の剣道大会はしばらくない。
徹底して「基本の基本」を磨くことにした。
ひとり稽古の徹底強化を始めて半年たった2011(平成23)年秋。私の剣道にちょっと変化が表れはじめました。
"腕始動" "脚始動"の剣道を、「腰始動」の剣道に
元オリンピック選手でマラソンランナーの高橋尚子さんがパーソナリティを務めるラジオ番組でこうおっしゃっていたのを聴いたことがある。
「マラソンのコツは、小さな筋肉をなるべく使わず、大きな筋肉を使って走ること。ふくらはぎの筋肉に頼らず、でん部から太ももの筋肉を使うこと」
「ふくらはぎの筋肉に頼らない」、この話を聞いて、剣道にも当てはまることだなと思った。
2010(平成22)年1月にリバ剣した初日の稽古のときのこと。(その様子はこちら)
こんな足の遣い方ではアキレス腱が切れても当然だな、と思った。稽古終了後に、ふくらはぎを酷使したことにより力が入らず、しばらくまともに歩けなかったのです。実際、剣道でアキレス腱を断裂する人は非常に多い。
その後、二天一流武蔵会で「ナンバ歩き」の原理を教わった。(その様子はこちら)
脚力に頼らず"腰で歩く"方法だ。早速実践して1年半が過ぎたころ、地元道場でこう言われるようになってきた。
「技の起こりが分かりずらい」
「片手で打ってるのに、なんでそんなに早く打てるのか」
「一時間ぶっ続けで稽古しているが疲れないのか」
これらは、通常の歩く動作を「ナンバ歩き」という動作に根底から変更したことによって得られた"効果"のほんの一部です。
「ナンバ」歩きは、"腰始動"の剣道の必須の稽古法なのです。
技の起こりが分かりずらい、ということは、「溜め」がないということ。腰を入れずに、脚力だけで蹴りだそうとすると、どんな人でも必ず一瞬「溜める」。元立ちの高段者の先生方は、そこを見逃さないわけです。自分は"起こり"など作っていないつもりでも、わずかな「溜め」が「拍子」となって表れるのです。そこをとらえられてしまう。
片手打ちなのに早く打てるのはなぜか。諸手上段のように、諸手で構えて片手で打つならまだしも、二刀者は片手で構えて片手で打つ。腕力だけで打ったら竹刀といえども数回振ったら疲れてしまいます。1㎏以上ある本身であればなおさらですよね。
これも"腰始動"であれば難なく振れる。腰始動にすると竹刀自体の重さを引き出して、その重さを利用して振れるようになるわけです。
この時私は47歳。稽古は、一時間ぶっ通しでやってました。休憩なし。一人目の地稽古が終わって、次の方のところに並びながら5分休憩なんてない。時間がもったいないですからね。早く30年のブランクを埋めなければならないって、そればかり考えてましたから。空いている先生に次々に稽古をお願いする。
もちろん私はかかりて手ですから、受けて、流して、応じてなんていう稽古はしません。精一杯、自分からかかっていきます。
これも"腰始動"ができるようになってきて、不必要な筋力を使う動作をしなくなった結果、疲労しにくくなったということ。足のふくらはぎなどの小さな筋肉を酷使しないで、それ以上の運動能力を発揮することができる。"腰始動"なら脚が疲れて前に出ないなんてことにはならないわけです。
ふくらはぎを酷使する剣道ができるのは、20代までじゃないでしょうか。そのままの剣道を壮年になってもやっていると、技術や体力の限界を感じて剣道がつまらなくなってしまう。ケガの原因にもなりますね。ふくらはぎの酷使は本当に体力を奪います。
竹刀が片手で振れると楽しい
正しい片手刀法で「打って、打って、打ちまくる」を信条に、自宅で毎日一時間半以上、打ち込み稽古をするようになり、ぎこちなかった片手打ちが楽しくなってきた。
自宅に打ち込み台を置いたのは大正解。家族は迷惑がってますけど関係ありません。笑
こちらは夢の実現がかかっているんですからね。多少は我慢してもらわないと。(なんちゃって)
以前は肩に力が入り、竹刀を「グー」でわしづかみにしていた。そうすると、打突が弱くなる。竹刀を自在に片手で扱うなんてことができるようになるのだろうか、って思ってた。
しかしこれが、だんだん肩の力が抜けてきて、竹刀も指二本で握って振れるようになってくる。指二本というのは、もちろん小指と薬指。『五輪書』にもありますね。
中指は添えるだけで、人差し指と親指は握りません。すべての打突部位が正確に打てるようになってくると、時間のたつのも忘れて打ち込み台に向かっています。
出稽古で"ガチ稽古"
出稽古の利点の一つに、初対面のお相手と稽古できるということがあります。
お互いの手の内や力量が分からないところから、稽古が始まる。互角稽古であれば、まさに"ガチ稽古"になります。
浦安は震災の影響で稽古場所が確保できないため、お隣の市川市を中心に出稽古に行かせていただくようになると、いろいろな世代の初対面の方々と稽古する機会ができた。
すると逆に、リバ剣おやじが二刀をやっているという物珍しさも手伝ってか、私が市川での"ホーム"にしている市川市剣道連盟東部支部に、出稽古に来る方が増えてきたのです。
これは、毎回本当にいい稽古をさせて頂きました。
地元では災害復旧まで1年間、思うように稽古できなくなりなしたが、新たな交流が生まれるきっかけになりました。
ある出稽古先で、高段者の先生に稽古のお礼のご挨拶をした際、「二刀はどこで習っているのか」と聞かれました。「二天一流武蔵会です」と答えると、「きれいな二刀をする人はみんな武蔵会だね」と言われたのです。
私は、片手刀法の基本稽古を毎日淡々と続けていただけ。
「今はこの方向でいいんだな」
そう思って、愚直に稽古を続けた。
この半年後に、だれも予想だにしないことが起こることも知らずに。