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2019年5月5日日曜日

リバ剣 日常の稽古⑤ 期待されていない“リバ剣おやじ”

周囲の目は冷めている


道場のに通う子供の保護者たち


 「見た目は強そうに見えるんですけどね~」

 前回の投稿で、2010(平成22)年10月の市民剣道大会に出場したことを書きました。その大会後の懇親会の席で、ある保護者から言われた言葉です。
 まあ、言われてもしょうがないですよね。2大会続けて、ヘンな負け方をしてますからね。
 
 剣道をやっている人から言われるんだったらいいんですけどね。やってない人に言われると、傷つきますね。マジで。笑

目標は3年以内に市民大会優勝


 この目標は、リバ剣した時にたてたもの。(その時の状況はこちら
 私の場合、運動不足解消のためとか、子供と一緒に剣道がやりたいからとか、子供の稽古の指導を頼まれたとか、そういう目的で「リバ剣」したわけではありません。
 あることがきっかけでリバ剣を決意したのですが(そのきっかけは、こちら)、目標はガチンコ勝負で現役世代に勝つこと。その第一段階の目標として“3年以内の市民大会の優勝”を掲げたのです。

 しかし、1年たってもこんな状況でしたから、やはり現実は甘くないと思い始めましたね。
 そして、市民大会のレベルもあなどれないと思った。初心者から、私のようなリバ剣剣士、百戦錬磨の現役選手、熟練の高段者まで、垣根なく出場するのが市民大会。意外な猛者や伏兵がいるのも特徴です。
 また、市や県のレベルで代表に選出されている人が、市民大会出場を回避していることも見受けられます。そういった代表選手の中には、市民大会で“土”をつけたくない、負けたらかっこ悪い、そう思っている人も少なくないということも分かりました。
 私自身も、市民大会をナメてたな、と反省しました。

 でも、目標は決めてしまいましたから、それに向けてやるしかありません。

中学時代の恩師との再会


 リバ剣してもうすぐ1年。試合で結果が出てない現状に、暗中模索していたころです。
 お隣の市川市に小学生の剣道大会にを観戦しに、息子を連れて出かけました。
 市川市は、私が中学卒業まで剣道をやっていたところ。現在の小学生の試合のレベルはどうなっているのか、なんとなく知りたくなってのぞいて見た。

 会場の観客席に上がる通路で、懐かしい顔とバッタリ。同級生のJ君。中学と高校で一緒に剣道をやった仲間。会うのは28年ぶり。
 聞けばJ君も、十数年のブランクからリバ剣したそうで、その時二段だったのが六段まで昇段したとのこと。いきなり勇気をもらいました。

 その直後、今度は中学時代の剣道部の顧問にバッタリ。国士館大学出身の鬼のように怖い先生です。その先生が開口一番、「随分、穏やかな顔になったなぁ」ですって。
 私もそんなに怖い顔してたんですかね。笑

 30年ぶりに剣道を再開したことを伝えると、大変喜んでくれました。
 というのも、この先生は、私が高校に入ってから極度の貧血で剣道を断念したことを知ると、心配してわざわざ家まで来てくださったことがあるのです。それくらい、剣道と教育に熱心な先生。傍らにいた私の息子にもこんなふうに声をかけてくださった。

 「お父さんは、剣道が本当に強かったんだぞぉ」

 その時の、息子のうれしそうな顔、今でも忘れません。
 恩師からの証言ですからね。息子もやる気になったようです。

 私に対しては、こういう言葉をかけてくださった。

 「まあ、ケガに気をつけてやれよ」

 拍子抜けしました。笑
 全然期待されていないんだなって。運動不足解消でリバ剣したぐらいに思ってる。
 まあ、無理もないですね。ブランク30年で、このとき二段ですからね。そこそこのところでやってなさい、って感じでしょうか。

 「よし、絶対に驚かせてやる」

 その誓いが現実のこととなるのは、この2年後のことです。

予期せぬ出来事


 以前、防風林の雑木林の中で、打ち込み稽古をしていることを書きました。(その投稿はこちら
 あれは、雨の日以外は毎日続けていて、打ち込みに使用していた「カーボン竹刀」が2カ月でポッキリ折れるほど、熱が入っていました。

 仕事から帰宅して夕食を済ませて、まずは「ナンバ走り」を4~8㎞やります。(ナンバとはこちら
 その後、打ち込み用のカーボン竹刀を持って、海岸沿いの雑木林(防風林)に向かいます。いつも21:00ごろでしょうか。そこから、一時間半ぐらい片手で打ち込み稽古をします。

 街灯はありませんから、真っ暗な林の中で独り。目が慣れてきて、打ち込み用に据えた松杭がうっすら見えてきたら、稽古開始です。
 周囲にひと気は一切ありませんから、最初のころは恐怖心がありましたけど、慣れてしまえば本当に集中できる環境です。その日も、無心で稽古してました。
 
 しばらく稽古していると、背中にないはずの「人の気配」を感じたのです。
 恐る恐る振り返ってみると、5mぐらい後方に警察官が3人立っていた。何かの通報かパトロール中に来たんでしょうね。
 松杭の“頭”には緩衝材を巻き付けてあったので、打突音が響いたわけでもありません。コソコソしたら、不審者と思われるのではないかと思い、そのまま堂々と打ち込み稽古を続けました。
 数分しても、声をかけてこない。不思議に思って振り返ってみると、もうそこに警察官の姿はありませんでした。こんな夜中に、こんなところで剣道の稽古をしているんですからね。相当ヘンなやつだと思われたでしょうね。笑

 また、ある日のこと。いつものように真っ暗な雑木林の中で打ち込み稽古に熱中していた。すると、またしても「人の気配」。気味が悪くなって振り返ると、真後ろに人が座ってこちらを見てるんです。
 「ギャーッ」って、心の中で叫びましたよ。怖いなんてもんじゃない。真っ暗で誰もいない林の中で、知らない人が私をじっと見つめているんですから。
 警察官の時は、外見で素性が分かりましたからね。今回はどんな人か分からない。30歳ぐらいの男性ということだけ。本当に怖い。
 その人がニコッと笑って、声をかけてきた。

 「二天一流の稽古ですか?」

 その言葉を聞いて少し落ち着きました。剣道の関係者かなって。

 「そうです」と答えると、その方が堰を切ったように話し始めた。

 その方は、宮本武蔵の大ファンで、武蔵に関する劇画や小説、映画など、あらゆるものを研究しているそうで、川沿いの遊歩道を竹刀の大小を持って雑木林に向かって走って行く私の姿を見て、あとを追ってきたのだそうです。

 「もう少し稽古を見ていていいですか?」

 いやとも言えないので了解しましたが、気味が悪いので早々に稽古を切り上げて、その日は帰りました。

 その1週間後ぐらいでしょうか。その人と最寄り駅でバッタリ会ったのです。

 「先日はありがとうございました。本物の二天一流の稽古が見れるなんて思いませんでしたっ」

 スーツにネクタイ姿。きちんとした、いい青年でした。
 ああいう人のためにも、一日も早く理にかなった二刀ができるように頑張ろう。そう心を新たにしました。

子供だけは信じている


 子供って、「お父さんはすごい」って思っているところって、ありますよね。なにかにつけて。
 そういう子供の心を思うと、こちらもいい加減なことはできないし、手が抜けなくなってくる。そうすると、ますます自分の稽古に力が入ります。

 夜な夜な、竹刀を持って出かけていく“お父さん”。どんな稽古をしているのかと思ったんでしょうね。
 その日は、防風林の中の稽古についてくるという。2010(平成22)年の12月のこと。小雪がちらつく夜でした。息子は当時小学4年生。

 寒いからダメだと言ったんですけどね、どうしても聞かない。仕方なく許可して、一緒に海沿いにある雑木林(防風林)へ向かった。
 すると、林の入り口まで来たところで、帰りたいと言い出した。
 真っ暗な雑木林を見て怖くなってしまったんですね。

 「帰るなら、ここから一人で帰れ」

 そう言うと、心を決めた様子でついてきました。

 いつものように、ひたすら片手で打ち込み稽古をする私。傍らで座ってそれを見ている息子。小一時間ぐらいたったでしょうか。ちらつく雪の粒が大きくなってきた。

 「まだ終わらないの?」

 しびれを切らした息子が聞いてきた。

 「あと100本やったら帰ろう」と私。

 「じゃあ、ボクが数えるね!」

 そう言って、打ち込みを数え始めた息子。

 「………37、38、39、40、71、72、73………」だって。

 よっぽど早く帰りたかったんですね。笑


追記
 市内にこの一角だけ残っていた防風林ですが、この2年後にはその姿を消し、海浜公園に生まれ変わっています。白血病を患って退院後に、リハビリがてらこの公園に散歩に行くたび、あの日の思い出がよみがえります。