ようやく理解された「正しい二刀」
"ひな壇"の先生方
リバ剣して6年目の2015(平成27)年10月。浦安市秋季市民剣道大会に出場しました。
毎年、秋季大会は団体戦のみ開催されます。3人制で、40歳以上の壮年の部と40歳未満の青年の部に分かれます。
この年は、春季大会(個人戦のみ開催)の壮年の部で2度目の優勝を果たしております。(その模様はこちら)
秋季大会も前年に優勝していますので、連覇がかかっていました。(前年の秋季大会の模様はこちら)
以前、市の剣連の会長さんが「アンチ二刀」だったのが、私の試合を観て、そうではなくなった時のことを書きました。(その記述はこちら)
しかし、市の剣連にはあと二人、"アンチ"の方がいらっしゃるんですけど、今回、そのうちのお一人の様子が、今までとちょっと違うんです。
剣道大会には通常、大会役員や来賓が座る上席が設けられています。俗に「ひな壇」と言われる席。
大会中、ここに着席されている先生方は、試合を観ているんですが、複数ある試合場のどの試合を観ているかは、こちらから見ればよく分かるのです。どの方がどの会場の試合に興味があるのかないのか。
この「ひな壇」にあと一人、二刀をあまり快く思っていない方が、いらっしゃる。
その方は、二刀者が試合に出てくると見向きもせず、他の会場を観ていたのですが、今回は私の試合をちゃんと観ていたようなんです。
壮年の部、3人制団体戦
チームは前年のこの大会に出場する時に結成したおやじチームのメンバー。
先鋒は、40代半ばの二刀者。逆二刀。
中堅は私で、この時51歳。正二刀。
大将は還暦を過ぎた一刀者です。
前年は、あれよあれよという間に勝ち進んで優勝してしまいましたが、この年はちょっと雰囲気が違いましたね。
壮年の部の他のチームは、それぞれメンバーを入れ替えて闘志満々という感じ。皆さん優勝をねらってきているんですね。
それはそうだと思います。プライドがおありでしょうからね。
前年の大会の時、私たちのチームは全員三段で、壮年の部では最も低い段位のチームで優勝してしまいましたから。
この年は私が四段に昇段していますが(その審査会の模様はこちら)、相変わらず壮年の部の中では最も平均段位が低いチーム。
他のチームは、平均年齢も若いし高段者もいる。皆さんかなり気合が入っていました。
難関は準決勝
準々決勝までは順調に勝ち進み、私自身も全勝。
問題は、準決勝のお相手チーム。私たちよりも若くて高段者ばかり。
しかも、お相手チームの3人は、私たちがそれぞれ苦手としている方。
先鋒戦は予想通りかなり苦戦する展開になっていました。
いつもなら、グイグイ攻め込む逆二刀者が、攻め込めないでいる。お相手が大刀側の小手をねらって攻めてきているからなんです。それを嫌って大刀を持った左手を引くもんだから打てない。対二刀をかなり研究されていますね。
お互いに有効打突なく、引き分け。 お相手の試合運びのうまさが目立ちました。
中堅戦。私のお相手は剣道六段の女性。年齢も私よりも若い。
それまで何度か対戦していますが、すべて引き分け。非常にやりにくいお相手で、試合巧者。
ブランクの長いリバ剣おやじは、この"試合経験"の少なさだけはどうにもならないんです。剣道を継続してやってきた方々には、かなわない部分なんですね。
私の得意とする「出ばな技」がことごとく封じられてしまって、時間だけが過ぎていくっていう感じ。あせりが募る一方で、自分の剣道ができない。今回も引き分けに終わりました。
少なくとも、先鋒の方か私のどちらかが"勝ち点"をとって、大将に回さなければならないところを、勝ち点なし。今大会私たちのチームでは初めてのケース。祈る気持ちで大将戦に。
流れとしてはあまりよくない流れのように感じていましたが、大将はよく踏ん張ってくれて、引き分け。
勝負の行方は代表戦にもつれ込みました。
お相手のチームは、代表戦になった場合は先鋒の方が出ると決めていたらしく、もう面をつけ始めている。
私はチームの二人からうながされて代表戦に出ることになり、面をつけ始めた。
代表戦のお相手は、剣道六段の男性。年齢は私とあまりかわらないと思います。初めての対戦で、どんな剣道をしてくるのか分からない。
先に準備を終えたお相手は、余裕綽綽(しゃくしゃく)といった感じで待っている。
私が面をつけ終え、試合開始。立礼から大小を抜刀して蹲踞。「はじめ」の号令で立ち上がった。
スルスルと間合いを詰めるお相手。
「間合いが近いな」
と思った瞬間、もう打っていました。
「面あり」
主審の声が聞こえた。初太刀で一本をとりました。
これで、決勝進出です。
決勝戦は、私は引き分けでしたが、先鋒と大将が頑張ってくれて優勝することができました。2年連続です。
この年も、いいチームワークで勝ち進むことができた。3人とも、それぞれいいところが出て満足できた大会になったと思います。
こうなると、目指すは翌年の3連覇ですね。
「理」は伝わる
大会役員席に座った一人の先生。剣道八段で強豪校の剣道部顧問。
私が試合の合い間に他のチームの試合を観戦していると、この人が私のところへ歩み寄って来た。
「さっきの一本をとった打突は、どこを打ったの?」って聞いてきた。
ひな壇からは遠くてはっきり分からなかったようだ。
それから何試合かして、決勝に備えていると、またやってきて同じことを聞かれた。
いずれも、私が「出小手」で一本をとった時のことを聞いているんです。
逆二刀が相手の右小手を打つのはよく見る光景ですし、左手に持った大刀で相手の竹刀の裏側にある右小手を打つのは、簡単にイメージできると思います。
しかし、正二刀が右手に持った大刀で、相手の竹刀の裏側にある右小手をどうやって打っているのか解らない、というのです。
しかも、相手が打とうとする"起こり"を打つ「出小手」で仕留めているので、そういう場面を見たのは初めてなのだそう。
どういう太刀筋で、本当に正しい刃筋で、打っているのか、それが知りたかったようです。
変われば変わるものですね。以前は二刀の立会いなんて見向きもしなかった方ですからね。二刀に対してあまりよいイメージを持っていなかったようです。
しかし、この日は二刀の理合(りあい)に興味津々。
正二刀の出小手の打ち方を、懇切丁寧に教えてあげました。笑
何を隠そうこの人は、私の母校の現在の剣道部顧問。
「ひな壇」に戻ると周囲の先生方に、正二刀の「出小手」のレクチャーを得意げにしているのが見えました。笑
市の剣連で、「アンチ二刀」はあと一人。その人とは、意外なかたちで和解することになります。