片手刀法の実践
片手上段。竹刀の黒いしるしは重心位置。正中線上にあるのがわかる。 |
正二刀、上下太刀の構え。大刀の重心は正中線上に。小刀の切っ先は中心をとる。 |
剣道は諸手刀法だけではない
「片手で竹刀を持ち、片手で構えて、片手で打突する」
これを片手刀法の前提条件とさせていただきます、この稿では。
すると、諸手左上段は当てはまらないので、現代剣道でその条件にあてはまるものがあるの?と思う方もいるかもしれません。大別すれば2通りの方法があります。
写真上は「片手上段」です。右手で持てば「右片手上段」、左手で持てば「左片手上段」になります。
最近は、ほとんど見ることはありませんね。
昭和50年代までは、非常に少なかったですがいました。「左片手上段」で全日本剣道選手権大会に出場した選手もいたと記憶しております。
私は普段、二刀を執っていますが、一刀で片手上段もやります。
なんで諸手左上段じゃないの、と聞かれることがありますが、片手上段の方が自在に打てるし技も多彩ですからね。実際に、3.9の竹刀(515g)で「右片手上段」で試合に出場したこともあります。
写真下は「二刀」です。右手に大刀を持つのが「正二刀」。逆が「逆二刀」。
二刀も片手刀法です。左右それぞれの手で片手刀法をやっているわけです。
片手上段や二刀の構えは、面を防御している?
ごく稀に、こう聞かれたり、指摘されたりすることがあります。竹刀で面を隠していると。
ということは、そう思っている方が多いのではないでしょうか。
実際に、二刀を執っている方でも、そう思っているという方がいると聞いて、ちょっと驚きました。
その方は、大刀で面を"隠す"というのはズルいから、大刀を頭上で斜めに寝かさずに、真っすぐ立てて構えていると。
"身内"にもこういう考えの方がいらっしゃるということは、正しい片手刀法が継承されていないという現状が、露呈したかたちですね。(片手刀法の継承についての記述はこちら)
片手上段や二刀は「重心」で中心をとる
結論から言えば、竹刀を頭上で斜めに寝かしているのは、面を防御しているのではありません。構えているのです。攻めるため、打つための構えです。
一刀の方が中段に構えるのは、左右の胴を防御するためなのでしょうか。
諸手左上段の人は、面を防御してのことなのでしょうか。
言うまでもありませんが、防御しているのではありません、構えているのです。
片手刀法では竹刀の重心を、中心あるいは正中線からはずさないということが、非常に重要です。
実際には、重心をまったく考慮しない竹刀操作をしている方はたくさんいます。しかし、それは竹刀だから出来ること。1㎏以上ある日本刀をそのように片手で振ることは非常に無理があります。
重いものを持ち上げる時に、重心を考えずに持ち上げようとして失敗し、重心を考慮したら持ち上げられたなんて経験は、どなたにでもあると思います。
物を扱う時の重心への意識は、非常に重要で、それが竹刀であっても同様なのです。片手で操作する場合はなおさらですね。
写真上のように、片手で上段に構えた場合、刃を相手に向け、竹刀の重心を正中線上に置きます。
面を打つ場合は、その重心点が直線の軌道でお相手の打突部位に向かって瞬時に移動します。ですから、重心は終始、中心からはずれないわけです。重心点は直線で移動しますから、竹刀は最短距離で打突部位に到達することになります。
構えた時から打突完了まで、竹刀の重心が中心を"制した"状態になるわけです。
その打突時に重要なのが「手の内の冴え」。
構えた時、重心は中心にありますが、片手で柄を握った拳は大きく正中線からははずれています。
打突時は、この拳を瞬時に正中線上の自分の胸の前に持ってくると同時にヒジを伸ばす。
重心は正中線上にありますから、拳を正中線上に持ってくれば、剣先は正中線上にきます。当然ですが、竹刀全体が正中線上に入り、正中線を斬ることができるのです。
その「斬る」瞬間に、もうひと仕事必要です。
切っ先が「面」をとらえる瞬間に、手首のスナップをきかせて柄(つか)をわずかに引き上げる。その引き上げ方は、重心を中心に竹刀が回転する運動に瞬時に変換するようにする。
そうすることによって、切っ先の速度がさらに加速され、冴えある打突ができるのです。これを二天一流では「切っ先返しの打ち」と言います。(切っ先返しとは、こちら)
構えから打突、手の内の冴えまで、一連の流れに「重心」はとても重要な役割を果たしているのが解りますね。
一刀中段で「重心」を意識する
子供たちと稽古していて、剣尖が中心をとらえていない者に、中心をとるように言うことがあります。
そうすると、剣先だけを中心にもっていこうとして、手首で"こねて"竹刀の重心や左拳が中心からはずれてしまう子供をよく見かけます。
剣尖(剣先)で中心をとるには、正しい構えが前提です。竹刀の重心と左拳が中心にあれば剣尖(剣先)は自然に中心をとらえます。
剣道形の解説などで、中段の構えで「剣先を相手の左目に向ける」という場合があります。これは、中心にある竹刀を相手の左目の方に、剣先をずらして向けるのではありません。
刀には反りがありますので、諸手で握った手をやや右にひねると、切っ先だけが相手の左目に向くわけです。これが、相手の左目につけるという意味です。この時、左拳も重心も中心にあるのです。
これを反りのない竹刀で体現するのは、なかなか面白いものです。
剣尖(剣先)を緩めたり、誘ったりすることも自在です。左手と重心の2点で中心をとれば、"攻め"も変わります。
一刀流の「斬り落とし」などは、まさに刀の重心が中心を制した状態であるから、お相手を刀ごと斬ることができるのです。
威嚇と攻めは違う
二刀者で、上下太刀に構えた時に、大刀を頭上高くあげたり戻したりしている人をよく見かけます。それを「攻め」だと思ってやっている方もいるようですが、それは威嚇です。稽古で練磨してやるべきことではありません。
玄人相手にそんな威嚇をしても通用しませんし、第一お相手に失礼です。
平成の高名な二刀者が、そういうことをしていたので、真似している方がいるようですね。
片手刀法は重心で中心をとっているわけですから、「重心」で攻めるのです。
一刀中段で、剣先で攻める感覚とまったく同じです。
頭上にある「重心」でお相手を攻めるのです。威嚇は必要ありません。
なお、二刀の場合は、同時に小刀の剣先で中心をとって攻めます。小刀と大刀の両方で攻めるのです。
重心で中心を制す
片手刀法は、竹刀の重心で中心をとり、重心で攻めます。
朝鍛夕錬してそれが身に付いてくると、「重心で中心を制す」ことができるようになります。
これは、構えた時も、打突の途中も、打突の瞬間も、打突した後も、「重心で中心を制す」ということです。
一刀の高段者の先生方、特に八段範士の先生方の竹刀さばきを拝見したことのある方は、皆さんお気づきだと思います。竹刀の重心や左拳が大きく中心からはずれて、振り回すなんてことはありませんよね。
片手刀法も「剣理」は同じです。